«月夜の名探偵ツキヨさん☆»

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エピローグ

 (研究室ふたたび)

「kitatomy教授、ツキヨさんはなぜ、ここに来られるようになったのですか?」

「ああ…。aithemathくんはまだ居なかったんだね…。

ここ胡難市では以前にも、奇妙な事件があったんです。
その時なぜか、一主婦のツキヨさんが、調べ物のためにここに来られてね…。
で、私が相談に乗ったんですよ。」
秋も深く、柔らかい日差しの入る研究室で、kitatomy教授は、自身が身元引受人となった青年の質問を受けていた。

「その晩、何の調査だったのか、ちょっと疑問だったので、恐る恐るツキヨさんにメールしたら、翌朝すぐに返答メールが来ましてね…。
素早く誠実なお返事に驚き、またその内容について質問したところ、すぐに懇切丁寧なメールが返ってきて、感動したんです。
ひとつ尋ねると、何倍にもなって返ってくるところに、ツキヨさんの素晴らしさを感じてしまいました。
私もツキヨさんの魅力に惹き込まれた一人なんですよ、aithemathくん。」

以前と変わらず、この研究室に勤務できるのも、教授のおかげである。

aithemathは、数ヶ月前とは見違えるような穏やかな眼差しで、目の前の恩人に対して頷きながら微笑んだ。

「教授ぅ~!今夜、いかがですか?!」
卓が右手でクイッと盃をあおるポーズをした。

「卓くん、すまないねぇ…。今日は結婚記念日なので、家内と待ち合わせなんですよ…。」

「あっ!教授っ!それで今日はいつもに増して、ダンディーなんですね!
…じゃあ、aithemathさん、二人で行く?」

「はい、お供します。」

aithemathは、卓に向かってニッコリ笑って答えた。

「でも二人ってのも寂しいよなぁ~。そうだ!ツキヨさんにも声をかけようか?」

「ツキヨさんは今日、例の人に面会に行くっておっしゃってましたよ。」

「えっ、何、aithemathさん、ツキヨさんと連絡取ってんの?!」

「はい。あのひとは…私の恩人ですから…。」

なんの屈託もなく、そう口にできるようになったaithemathを見て、卓はジーンとした。
(本当に良かったな、aithemath……ってオレ、ヒナを巣立たせた親鳥の心境??)

卓は、心の中で一人自分にツッコんだ。

 ☆

「お久しぶりです、ツキヨさん。
その節は大変ご迷惑をおかけいたしました。」

「何か困っていらっしゃることはありませんか?Qきちさん。」

「ありがとうございます。大丈夫です。
…私、これでも模範囚なんですよ!一日でも早く出たいと思って、頑張っているんです。

それから、毎日ツキヨさんにお手紙を書くのがとても楽しみで。」

「あっ(汗)!あんまりお返事できなくて、ごめんなさい!」

「(笑)…いいんですよ!ツキヨさんはお忙しいんですから。読んでいただけるだけで、ありがたいです。
…そうだ!2、3日前から書き始めて、さっきやっと書き終わった物があるんです。
あとで読んでいただけますか?」

もはや犯罪者とは思えないような明るい瞳になったQきちを見て、ツキヨはなぜか胸の奥が熱くなった。

心の底から“良かった”と思った。

Qきちから渡された数十枚のA4の紙には、意外に几帳面なQきちの字が並んでいた。

ツキヨは問うように、Qきちを見やった。

「お話を…書いてみたんです。
勝手にお名前を拝借しましたが…」

はにかむように笑ったQきちが、タイトルを指で差し示した。


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 THE END



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